ビールの香りと風味について~ビールの香りの分析~

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先日、ビール醸造家である卒業生が「機器分析によるビールの香り分析を通して、製造法の違いと香りの関係をこれからのテーマにしたい」と来校しました。

Beer Flavor Wheel及びビール酒造組合国際技術委員会(日本語版)より引用

 

ビールの香りにつながる成分は多種多様であり、ビールの特徴的な香りとしてどれを選ぶか、その香りがどのような製法で香りとしての閾値を超えるかなど「ビールの香り」を考え始めると広く、深すぎて溺れそうになるように感じます。

 

前回のブログではホップを話題にしましたが、ホップ毬花から得られる精油成分は多くがテルペン系炭化水素類であり、そして、ホップ毬花から感じられるのは炭化水素類の刺激的な香りで、これは蒸煮中に蒸散しやすく、親水性に乏しいため、発酵中に他の不溶性物質とともに不溶化したり、酵母表層に吸着したりするためビールまでほとんど移行しないとされています。
岸本らは、チェコやドイツ産のホップアロマを有するビールのテルペノイドの濃度を分析し、linalool、geraniolの他にテルペノイド、テルペン酸化物の濃度が閾値に比較して低く、実際にホップアロマを構成する成分は多くビール中にあることから、実際にホップのどの成分がビールにどのように移行するのかを調べています。

 

ホップにはその香味や使われ方から「アロマホップ」「ビターホップ」に大まかに分類されます。現在は、品種ごとに独特のフルーティな香気(柑橘様、トロピカルフルーツ様、白ワイン様、など)をビールに付与できるホップ新品種がアメリカ、ニュージーランド、オーストラリアなどから出て、その特徴を生かしたクラフトビールにより存在感を高めます。これらのホップは従来の「アロマホップ」とは異なり、α酸含量が「ビターホップ」並みかそれ以上であることもあり、「フレーバーホップ」「インパクトホップ」と呼ばれており、ホップの育種は、今、ホットな分野になっているようです。

 

ビール製造工程において、揮発による香りの減少を香気の付与を目的としたホップは、煮沸の後半で添加して、添加量を変化させることにより、苦味と香気のバランスを調節することができます。この煮沸後半でホップ香気を付与する製法がレイトホッピングである。それでも香気が減るため、発酵終了後の熟成工程でホップを添加する方法も存在しています。これは、ホップ香気を付与できるメリットがある反面、ホップの刺激的な香気も強く付与され、IPAのビアスタイルで多く見られます。このドライホップに特有の刺激的な香りを抑えるために麦汁にホップを添加して、その熱でドライホップの刺激的な香気成分を発酵中の酵母に吸着させて低減するディップホップという製法を、キリンビール社が開発したことは有名です。

 

とにかく、おいしいビールの追及には「香り」が絶対的に必要なのです。
暑い一日の最初の1杯は、ほどよい香りで喉ごしの爽やかなビールで喉を潤したいものですね。

 

テルペノイド(イソプレノイド):
5万種類を超える天然有機化合物群で、有用な生理活性物質も数多く知られている。(佐藤 努,新潟大学農学部,化学と生物 Vol. 50, No. 9, 201)

 

<参考文献等>
・岸本 徹:ビールに特徴的な香りを付与するホップ由来香気成分, 日本醸造協会誌, 104, 157, 2009
・蛸井潔、糸賀裕、岡田行夫、鯉江弘一朗:ホップ品質の多角的な解析とその応用 ホップを育種し、守り、使いこなす,  生物と化学, 57, 10, 2019
・土屋友里、太田拓:ビール発酵液中へのホップ添加がもたらす酵母とホップの相互作用, 日本醸造協会誌, 115, 458, 2020
・蛸井潔:ビールをはじめとする酒類の香り研究について―近年の成果とトレンド―, 日本醸造協会誌, 110, 479, 2015

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