メトホルミンが肥満2型糖尿病モデルマウスに与える影響

研究先 国立国際医療研究センター 分子糖尿病医学研究部
コース 動物バイオコース

〈要旨〉
【目的】2型糖尿病は、インスリン分泌の低下および各組織におけるインスリン抵抗性が要因となって引き起こされる疾患である。本研究では、肥満2型糖尿病モデルマウスを作製して、メトホルミンを投与し、メトホルミンの具体的な薬効について確認することを目的とした。
【方法】7週齢のC57BL/6マウスに高脂肪食(HFD32)を14週間負荷し、肥満2型糖尿病モデルとした。次に、マウスを、メトホルミン投与群にメトホルミンを300mg/kg/dayで12日間経口投与を行った。その間体重測定および1日3回の血糖値の計測を尾静脈から行うことで、体重と血糖値の日内変動の変化を観察した。また、ITT(インスリン負荷試験)・GTT(グルコース負荷試験)・ELISAキットを用いた血中インスリン濃度の測定を行い、メトホルミン投与によるインスリン分泌やインスリン抵抗性の変化について検討した。投与最終日に解剖して肝臓を採取し、ホルチ法によって肝臓中脂質量を確認した。
【結果】高脂肪食負荷によって、マウスはグルコース代謝異常を形成した。この肥満2型糖尿病モデルマウスにおいて、メトホルミンは、耐糖能異常をほぼ正常な状態に改善することが分かった。そのメカニズムは、インスリン分泌の増加によるものではなく、インスリン抵抗性の改善による効果である可能性が示唆された。また、メトホルミンは肝臓中の脂質量を下げ、脂肪肝を改善する働きがあることが確認された。

目次
第1章 序論 3
1-1 糖尿病について 3
1-2 インスリンによる糖取り込み 3
1-3 インスリン抵抗性 4
1-4 脂肪肝 5
1-5 メトホルミン 5
第2章 目的 7
第3章 材料と方法 8
3-1 ITT 8
3-2 OGTT 9
3-3 血清インスリン濃度測定 9
3-4 ホルチ法 9
第4章 結果 10
4-1 高脂肪食HFD負荷による影響 10
4-2 体重への影響及び副作用について 12
4-3 OGTT 13
4-4 ITT 15
4-5 肝臓への影響 17
第5章 考察 19
第6章 参考文献 21
第7章 謝辞 22

第1章 序論

1) 糖尿病について
インスリンは膵臓から分泌されるホルモンであり、血糖を下げる体内で唯一のホルモンである。しかし、高脂肪食などの食生活、運動不足、ストレス、遺伝などにより、肥満が引き起こされる。肥満が、インスリン抵抗性や糖新生の亢進などを引き起こすと、高血糖を招く。
肥満2型糖尿病は、肥満を併発して、高血糖が続く疾患である。高血糖状態が続き、基準値に達すると糖尿病と診断され、悪化すると合併症:網膜症・腎症・神経障害・脳梗塞・心筋梗塞・抹消動脈疾患など様々な合併症を発症する。1)

2) インスリンによる糖取り込み
私たちが活動するためのエネルギーは、筋肉や脂肪などの組織が、血中の糖を細胞内に取り込むことで作られている。その中で、インスリンはグルコース代謝を行う重要なホルモンである。
インスリンが、筋肉細胞や脂肪細胞のインスリン受容体に結合すると、インスリン受容体基質IRS-1などがチロシンリン酸化される。IRS-1に、インスリン機能において重要な役割を果たすPI3Kが結合すると、Aktが活性化する。活性化Aktは、糖輸送担体のGLUT4の細胞膜への移動が促進され、細胞膜上にGLUT4が発現され、細胞内へのグルコースの取り込みが促進される。
肝臓では、糖輸送担体のGLUT2が最初から細胞膜上に存在しているので、細胞内へのグルコースの取り込みはインスリンの作用に依存しない。インスリンは、肝臓でグルコキナーゼを活性化させ、間接的にグルコースの肝臓への取り込みを増加させる。2)

3) インスリン抵抗性
インスリン抵抗性とは、インスリンが効きづらく、血糖を低下させるために過剰にインスリンを分泌する状態のことである。
肥満や高脂肪食、運動不足、遺伝などにより、血中に過剰なアミノ酸や脂肪酸が存在するようになる。この脂肪酸は脂肪酸トランスポーターCD36/FATによって、骨格筋や脂肪組織に運ばれる。運ばれた脂肪酸は、健康な人の場合は、ミトコンドリアのβ酸化によって代謝されるが、過剰な脂肪酸が運ばれてくると、細胞内に過剰の脂質蓄積が起きる。特に、生理活性を有するジアシルグリセロールやセラミドの過剰蓄積は、PKCθ、JNK、IKKβなどのセレン/スレオニンキナーゼの活性化を引き起こす。これらの酵素は、インスリン受容体基質IRS-1をセリンリン酸化する。IRS-1がセレンリン酸化された状態では、インスリンによる適正なIRS-1のチロシンリン酸化が阻害され、結果的にIRS-1以降のシグナルが伝達されず、GLUT4が細胞膜上に発現しない。したがって、インスリン抵抗性となる。
肝細胞においては、同様な経路においてインスリン受容体基質IRS-2 のセリン残基がリン酸化され、それ以降のシグナル伝達が阻害され、グリコーゲン合成などが抑制される。3)
遊離脂肪酸による酸化ストレスにより、インスリンシグナルが阻害されることで、膵臓はインスリンを過剰に分泌するようになる。過剰なインスリンが存在すると、インスリン受容体の数は相対的に減少する傾向にある。このことが、さらなるインスリン抵抗性の悪化を招く。4)

4) 脂肪肝
脂肪肝とは、一般的に、肝臓内の中性脂肪が10%以上になった状態のことを指す(正常な肝臓の場合は4~5%程度)。過剰な遊離脂肪酸によって肝臓に中性脂肪が蓄積すると、脂肪肝が引き起こされる。インスリン抵抗性は、中性脂肪の蓄積によって悪化することから、脂肪肝は肝臓のインスリン抵抗性の大きな要因となる。
脂肪肝は、糖尿病や脂質異常症を合併しやすい。また、脂肪肝自体が悪化し炎症を起こすことがあり、脂肪肝炎といわれる状態に陥ることがある。この状態が放置されると病状が徐々に進行し肝硬変・肝不全・肝がんとなる。5)

5) メトホルミン
現在臨床で使用されているメトホルミンは、ビグアナイド系の血糖降下薬である。
メトホルミンには、
1.肝臓での糖新生抑制作用
グルコース-6-ホスファターゼ(G6Pase) やホスホエノールピルビン酸カルボキシナーゼ(PEPCK)などの酵素の発現を抑制することで、糖新生を抑制する。6)

2.骨格筋・脂肪組織での糖取り込み促進作用
AMPKを活性化することにより糖輸送体GLUT4を細胞膜上に発現させ、骨格筋・脂肪組織での糖取り込みを促進する。7)

3. 肝臓での脂肪酸合成抑制作用
AMPK活性化により、ステロール調整エレメント結合タンパク質(SREBP1c)や脂肪酸合成酵素(FAS)の発現を抑制することで、脂肪酸合成を低下させる。その結果、中性脂肪やVLDL産生低下により脂肪肝を改善する。8)
があることが分かっている。
価格は1錠250mgあたり10円以下と、比較的安価で、糖尿病患者の経済的負担を少なくするメリットがある。9)

第2章 目的

メトホルミンは、骨格筋・脂肪組織での糖取り込み促進作用によりインスリン抵抗性を改善する作用と、肝臓中の脂肪酸合成を低下させ脂肪肝を改善する作用があることが分かっている。そこで本研究では、野生型マウスに高脂肪食を投与することで肥満2型糖尿病モデルマウスを作製し、インスリン抵抗性および脂肪肝の改善に着目しながら、メトホルミン投与による具体的な影響について確認する。

第3章 材料と方法

マウスは、野生型のC57BL/6を使用した。
全てのマウスはSpecific Pathogen Free(SPF)環境下で飼育された。

高脂肪食High Fat Diet(High Fat Diet32,日本クレア株式会社)を自由摂取させた群と、普通食Normal Diet(CE-2,日本クレア株式会社)を自由接種させた群を用意した(以下、High Fat Diet32を与えた群をHFD群、CE-2を与えた群をND群と表記する)。

HFD群には、7週齢からHFDを14週間負荷することにより、肥満2型糖尿病モデルマウスとした。その間、約2~4週間おきに体重と随時血糖値を測定した。次に、HFD群を半数ずつに分け、一方をMetformin群、もう一方をControl群とした。この2群に対し、4日間の予備投与を行うことで、副作用の有無について確認した。その8日後、本投与として12日間の連続経口投与を行った。Metformin群には300mg/kg/day(10のメトホルミンを、Control群には滅菌水与えるものとした。 投与中は体重および血糖値の測定を行い、メトホルミン投与2日目にITT(Insulin Tolerance Test,インスリン負荷試験)を、メトホルミン投与5日目にOGTT(Oral Glucose Tolerance Test,経口グルコース負荷試験)を実施した。血中インスリン濃度の測定と肝臓の採取を行った。採取した肝臓はホルチ法により脂質の抽出・定量を行った。

〈ITT(インスリン負荷試験)〉
インスリンの腹腔内投与の直前に餌を取り除き、3時間絶食させた。その後その際に体重と血糖値(0’)測定、血液サンプル約50µl (0’)の採取を行った。インスリン溶液は、10cc PBSに10µl insulin(Humalin R 100U/mL)を溶解して調整した。30G needleでインスリンを1.0mU/g-BWとなるように腹腔内投与し、各個体の腹腔内投与の時間差は約1分となるようにした。その後、20’、40’、60’、80’、100’、120’の血糖値を測定した。

〈OGTT(経口グルコース負荷試験)〉
前日に餌を取り除き、約16時間絶食させた。グルコース溶液は20%グルコースを使用した。当日体重と血糖値(0’)測定、血液サンプル(0’)の採取をしたのち、グルコースを2g/g-BWとなるように経口投与した。各個体の投与の時間差は約1分となるようにし、15’、30’、60’、90’、120’の血糖値を測定し、血液サンプルは、15’、30’で約50µl採取した。

〈血清インスリン濃度測定〉
ITT・OGTTで採取した血液サンプルの血清インスリン濃度の測定には、マウスインスリン測定キット・超高感度マウスインスリン測定キット(株式会社 森永生化学研究所)を用いた。

〈ホルチ法〉
2mlチューブに肝臓を0.500g量り、氷上に置いた。そこへ、MilliQ水 2mlを加え、ホモジナイズ用のビーズを加えた。Tissue Lyser(QIAGEN社)で 25Hz/2分×2回 破砕を行ったのち、15mlチューブに移した。残留部分に1mlのクロロホルム-メタノール(2:1)溶液を加えて、残留物を3.の15mlチューブに追加した。15mlチューブに4mlのクロロホルム-メタノール(2:1)溶液を加え、2分間激しく攪拌した後、3000rpm,5min,10℃ 遠心した。一番下の有機層を分取して、漏斗を用いて定性ろ紙でろ過し、2mlチューブに採取した後、ブロック恒温槽で80℃で2h水分を蒸発させた。全体の重さを量り、風袋を除いて脂質の重量を算出した。

第4章 結果

1)高脂肪食HFD負荷による影響
HFD負荷により、体重はND群の約1.5倍【図1-(A)】に、血糖値は約30~100上昇【図1(B)】した。また、ITT・GTT【図1(C)(D)】により、インスリンが大量に分泌されているにもかかわらず、血糖値が下がりにくい状態=インスリン抵抗性の状態となっていた。

2)体重への影響および副作用について
4日間の予備投与の4日目の時点で、メトホルミン群は下痢の症状を呈し、Control群と比べて約3g体重が落ちた【図2(A)】。予備投与4日間の後は、本投与まで8日間の間を設けたが、本投与では体重の変化はほぼみられなかった【図2(B)】。
また、予備投与では、投与1日目から、一部の個体で下痢の症状が確認された。この症状は3日間確認されたが、4日目にはほぼ通常の便の状態に戻っていた。

3)OGTT
【図3(A)】は、Metformin投与5日目に行ったGTTのグラフである。Met群の血糖値は、Control群と比べて有意に低下し耐糖能が正常な状態にまで改善されていた。この理由として、インスリン分泌が増加した可能性と、インスリン抵抗性が改善した可能性とが考えられた。この理由を調べるために、グルコース投与前・投与後15分値および30分値に採血したサンプルを用いて、血清インスリン濃度の測定を行った。【図3(B)】が、血清インスリン濃度の推移を示したグラフである。Metformin群のグルコース負荷後のインスリンは、Control群より増加はしておらず、ほぼ同等に分泌されていた。

4)ITT
【図4(A)】はMetformin投与2日目に行ったITTのグラフである。
20分値から40分値において血糖値の急速な下降や、その後も血糖値が上昇しにくい傾向がみられたことから、インスリン抵抗性が改善していたことがわかる。
また、3時間絶食後Insulin Injection前のインスリン分泌はMetformin群とControl群で差はみられなかった【図4(B)】。

5)肝臓への影響
メトホルミンの連続投与後にControl群を解剖して採取した肝臓は、白く肥大化していた。一方Metformin群の肝臓は、色や重さが正常なマウスと同等になっており、肝臓が体重に占める割合も低下していた【図5(A)】。
ホルチ法により、肝臓中の脂質を抽出したところ、Metformin群、Control群ともに脂肪肝の状態となっていたが、Metformin群の脂質量はControl群と比べて6.2%低下しており、改善の傾向が認められた【図5(B)】。



第5章 考察

高脂肪食負荷により、すべての個体で体重増加・随時血糖値の上昇・耐糖能異常・インスリン抵抗性がみられた。このことから、高脂肪食が肥満2型糖尿病を引き起こす大きな要因となっていることがわかった。

体重の変化について考える。予備投与4日間で、3gの体重減少がみられた。予備投与の後は、本投与まで8日間の間を設けたが、本投与では体重の大幅な変化がみられなかった。したがって、メトホルミンは、初めて摂取した場合に、若干の体重の低下がみられることがわかった。また、予備投与での体重減少の要因として、下痢の副作用があげられた。この下痢の症状は、個体によって差はあるものの、約3日で改善することがわかった。

OGTTでは、Metformin群の耐糖能異常がほぼ正常な状態にまで改善されていた。このとき、0分値・15分値・30分値において採取した血清サンプルのインスリン濃度は、Control群と有意な差は認められなかった。このことから、メトホルミンはインスリン分泌を増加させることなく、血糖値を有意に低下させていることがわかった。

ITTでは、Control群と比較して、20分値から40分値にかけて血糖値が急速に低下していた。このことから、インスリンの分泌に応答して血糖値が下がりやすくなっていると考えられた。また、40分値から120分値にかけても、血糖値が上昇しにくい傾向がみられた。これらのことから、インスリン抵抗性が改善していることがわかった。

3時間絶食後Insulin Injection前のインスリン分泌はMetformin群とControl群で差はみられなかった。0分値において、インスリン分泌に差はないが、Metformin群の血糖値がControl群よりも低いことから、糖代謝異常が改善していたことがわかる。このことから、3時間絶食後の若干の空腹時においても、メトホルミンはインスリンの分泌量に影響を与えず、インスリン抵抗性を改善していることがわかった。

肝臓を採取した結果、Metformin群・Control群ともに脂肪肝の状態となっていた。高脂肪食負荷により脂肪肝が引き起こされていたことがわかる。

Metformin群では、肝臓中の脂質量はControl群と比べて6.2%低下していた。このことは、中性脂肪の合成が抑制され、分解が促進している状態といえる。肝臓内の中性脂肪量が低下したことで、肝臓自体のインスリン抵抗性も改善している。これにより、インスリンによるグリコーゲン合成作用などが正常に機能したと考えられる。

今回の研究で、メトホルミンは肥満2型糖尿病モデルマウスのインスリン分泌に影響せず、インスリン抵抗性を改善することで、血糖値を有意に低下させることが確認された。また、脂肪肝を改善する作用が認められたことから、メトホルミンは肝臓のインスリン抵抗性の改善にも関与していることが示唆された。

今後、インスリン抵抗性を根本的に改善する治療法の発見を期待する。

第6章 参考文献

1)糖尿病ネットワーク
2)脂質と血栓の医学 インスリン
3)実験医学 Vol.27 No.7 筋肉におけるエネルギー代謝調節とインスリン抵抗性
4)保健指導リソースガイド
5)肝臓病 - 公益財団法人 大阪府保健医療財団 大阪がん循環器病予防センター
6)Metformin Inhibits Hepatic Gluconeogenesis Through AMP-Activated Protein Kinase–Dependent Regulation of the Orphan Nuclear Receptor SHP Yong Deuk Kim,1 Keun-Gyu Park,2 Yong-Soo Lee,1 Yun-Yong Park,1 Don-Kyu Kim,1 Balachandar Nedumaran,1 Won Gu Jang,3 Won-Jea Cho,4 Joohun Ha,5 In-Kyu Lee,3 Chul-Ho Lee,6 and Hueng-Sik Choi1
7)Metformin Increases AMP-Activated Protein Kinase Activity in Skeletal Muscle of Subjects With Type 2 Diabetes -Nicolas Musi,1 Michael F. Hirshman,1 Jonas Nygren,2 Monika Svanfeldt,3 Peter Bavenholm,4,5 Olav Rooyackers,6 Gaochao Zhou,7 Joanne M. Williamson,7 Olle Ljunqvist,2,3 Suad Efendic,8,9 David E. Moller,7 Anders Thorell,2 and Laurie J. Goodyear1
8)Metformin—mode of action and clinical implications for diabetes and cancer
Ida Pernicova & Márta Korbonits
9)おくすり110番
10)Bezafibrate及びMetforminによるTSODマウスの肝脂質代謝への影響〇山崎 研,池ノ上 智世,早坂 尚子,佐藤 悠平,山本 博基,納見 香,工藤 なをみ,川嶋 洋一(城西大薬)

第7章 謝辞

この度の卒業研究にあたり、インターンシップを受け入れてくださり、丁寧かつ熱心なご指導を頂きました小林直樹先生、実験を通して様々な知識や示唆を頂きました 国立国際医療研究センター 分子糖尿病医学研究部の皆様に深く御礼申し上げます。

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