川崎病におけるIVIGの作用機序解明

研究先 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター研究所 免疫アレルギー・感染研究部 母児感染研究室
コース 動物バイオコース

要旨

【背景】川崎病は乳児や思春期までの子供たちに見られる血管炎の病気であり、時折、冠動脈瘤(CALs)につながるケースがある。IVIG(Intravenous immunoglobulin)は、CALsの予防に効果的であるが、なぜIVIGが冠動脈血管炎内皮細胞に作用するのか、そのメカニズムは明らかになっていない。

【目的】HCAEC(Human Coronary Artery Endothelial Cells)=冠動脈血管内皮細胞をIVIG下で培養しIVIGの作用メカニズムを解明する

【方法】炎症性サイトカインであるTNF-α・IL1βで刺激したHCAECにIVIG製剤を添加し、Gene Chip解析によりIVIGにより発現抑制された遺伝子群を調べた。この結果の検証としてReal Time PCRとELISAを用いて遺伝子発現レベルとタンパク質の発現量を定量した。

【結果】TNF-αおよびIL1βはいずれも、G-CSF、IL-1β、IL-6の遺伝子発現を誘導した。IVIGはTNF-αで誘導されたこれらのサイトカインの発現を完全に抑制したが、IL-1βで誘導されたサイトカイン発現に対しては、全く無効であった。

【結論】IVIGは、TNF-aにより誘導される川崎病の病態形成に必須なサイトカイン発現を完全に抑制することで臨床効果を発揮している可能性が示唆された。

目 次

第1章    序 論........................................................................................................................ 1

第2章    方 法........................................................................................................................ 2

第1節    高濃度IgGによって抑制される遺伝子群....................................................... 2

第2節    初代ヒト血管内皮細胞の培養(炎症刺激・IgGの添加)............................ 3

第3節     Gene Chip解析の検証 Real Time PCR..................................................... 5

第4節     Gene Chip解析の検証 ELISA..................................................................... 6

第3章    結 果...................................................................................................................... 14

第1節    高濃度IgGによる遺伝子発現の変動............................................................ 14

第2節     IL-1βによるIgG抑制効果のキャンセル.................................................... 15

第5章    考 察...................................................................................................................... 20

第6章    今後の展望.............................................................................................................. 22

第7章    参考文献.................................................................................................................. 23

第8章    謝 辞...................................................................................................................... 25

第1章  序 論

川崎病は乳幼児期に好発する全身性血管炎の病気として、1967年に川崎富作先生によって始めて報告された病気である。報告されてから、半世紀経つがその原因や発症メカニズムがわかっておらず、また罹患率は右肩上がりで上昇している。川崎病の特徴として、心臓の冠動脈に形成される冠動脈瘤が後遺症として残る場合がある。これが心筋梗塞を引き起こし、突然死を招いてしまうことが臨床的に最大の問題となっている。血管の炎症抑制や後遺症である冠動脈瘤の予防を目的としてIgGを静脈に大量注入するIVIGが初回標準治療として確立されているが、20%近くの患者に対して不応である。また、なぜIgGが冠動脈瘤の形成を抑制しているのか、その作用機序がわかっていない[1,2]。

そこで我々は、冠動脈血管内皮細胞(HCAEC)をIVIG製剤下で培養し炎症がどのようにIgGによって抑制されているのか、その作用メカニズムについてをIn Vitroで検討をした。

In Vitro下で川崎病の炎症を再現するためにTNF-αを炎症刺激として用いた。

TNF-αを用いた理由は3つある。第1に、実際の川崎病患者の血清から高濃度のTNF-αが検出されること。第2に、重症川崎病患者の一部に、抗TNF-α療法が有効であること。第3に川崎病モデルマウスの際では、TNF-αが冠動脈瘤の形成に必要である事が報告されているためである[3,4,5]。

また、IVIG不応の川崎病患者の血清から、IL-1βという炎症性サイトカインが高濃度で検出されていることから、TNF-αと比較するためIL-1βも炎症刺激として用いた。

第2章  方 法

第1節       高濃度IgGによって抑制される遺伝子群

最初に我々は、高濃度IgG添加によって、TNF-α刺激したHCAEC内の遺伝子発現の変動を網羅的に検討した。今回の研究ではIgGの濃度は20 mg/mLを設定した。その理由は、現在の川崎病患者に使われる標準IVIG療法のIgG濃度が2 g/kgであり、その結果全身の血液中で増加するIgG濃度が約20 mg/mLであると算出されたためである。TNF-αを添加して約18時間後、20 mg/mL IgGを添加し、1時間、3時間、6時間、そして24時間後にHCAECを回収しRNAを回収した。IgGを添加24時間後のサンプルを用い、細胞内の遺伝子発現変動についてGene Chip解析を行い網羅的に検討した。

Gene Chipのデータの検証として、mRNA発現を定量的に解析できる、RT-PCR法とタンパク質を定量解析するELISA法を行った。

第2節       初代ヒト血管内皮細胞の培養(炎症刺激・IgGの添加)

In Vitro下で川崎病の冠動脈血管内皮細胞における炎症反応を再現させるため、Lonza(Walkersville, MD, USA)から購入したHCAECを用いた。そして細胞を正確に維持するために、EGM-2MV Bullkit(Lonza)を培地として用い、以下の手順で細胞に炎症の刺激処理を行った。

(1)     HCAEC細胞起こし

培地(BGM-2MV)(表 1)を25 mLチューブに10 mL移し、37℃ウォーターバスで温めておく。温めた培地をT-75フラスコに10 mL加えた。その後HCAECを-80℃フリーザーから取り出し、37℃ウォーターバスにて半解凍状態になるまで解凍した。半解凍状態になった細胞液をスポイトですべて吸い取り、T-75フラスコへ移した。細胞液が培地全体に行き渡るように穏やかにフラスコを揺すり、培養した。また細胞を凍結していた際に緩衝液として使用していたcell bankerは細胞にとって有害なため、細胞がフラスコの底面に付着したことを、顕微鏡で確認後(およそ6時間)、前培地をアスピレーターで除去し新しい培地を10 mL加え、培地交換を行った。

(2)     培地交換

細胞を起こしてから2日後、培地の色が赤色→オレンジ色に変わることを目安に(フェノールレッドが細胞から発生される酸素によって変色するため)培地交換を行った。培地交換の手順は上記の培地交換と同様に行った。

(3)     Subculture

培地交換から1日後、顕微鏡にて細胞の観察を行い、細胞が7〜8割コンフルエント状態まで増殖していることを確認した。培養していた培地をアスピレーターで全て除去し、HEPES salineを5 mL加えた。穏やかにT−フラスコを揺すり、フラスコ底面に付着している細胞を洗浄した。洗浄後、T-フラスコ内のHEPES salineをアスピレーターで全て除去した。その後、Trypsin 5 mLをT−フラスコに加え、5分間、37℃インキュベートした。インキュベート後、細胞がT−フラスコの底面から剥がれているかを見るために顕微鏡で確認した。細胞が浮遊していることを確認後、T−フラスコにTNS(Trypsin 中和液)を5 mL加え、細胞がフラスコ底面から剥がすためにピペッティングを行った。T–フラスコの細胞液を全て、50 mLチューブに移した。細胞液が入った50 mLチューブを1000 x 、5分間、遠心分離機にて遠心を行った。遠心後、細胞ペレットを吸わないように、上清をアスピレートし、あらかじめ温めておいた培地1 mLをピペットで加え、よく攪拌した。そこへ温めておいた培地9 mLピペットで加え、計10 mLにした。そこから10 μL取り、10倍希釈しトリパンブルーで細胞を染め血球計算盤を用いてcell countを行った(生細胞のみをカウント)。

細胞液が入った、50 mLチューブへ更に26 mLの培地を加え、計36 mLにした(Subculture時の、全てのwell内の細胞数が均一になるように、5.0 x 104 cells/well希釈)。希釈後、24 well plateに500 μL/wellアプライし、引き続き培養した。

(4)     Stimulation(TNF-α・IL-1β)

培地(EGM-2MV)の添加因子の1つであるhydrocortisone(ステロイド)の抗炎症効果を除去する目的で、炎症刺激開始の24時間前に、hydrocortisoneのみ除去した培地を調製し(HC–)、で培地交換を行った。

指定された24 well plateのwellに炎症性サイトカインTNF-α、IL-1βを培地で希釈(表 1)したものを400 μL/wellずつアプライし刺激を開始した。18時間後、実際に川崎病患者の治療に使われているIgG(IVIG製剤)を培地で希釈し、指定されたwellに100 μL/wellずつアプライした。IgG添加培地を添加してから、2時間、10時間、24時間、48時間後にtotal RNAと培養上清を回収し、Total RNAはReal Time PCR、培養上清はELISAの実験に用いた。

第3節       Gene Chip解析の検証 Real Time PCR

(1)     細胞内のTotal RNA抽出及び精製

炎症刺激とIgG処理を行った細胞からRNAの抽出及び精製を行った。RNAの抽出及び精製にはRNeasy mini kit (QIAGEN) を用いた。操作方法を以下に記す。

(2)     Total RNAの抽出

RNAの抽出・にはQIAGEN QIA shuredder・RNeasyを用いた。培養上清を回収後、細胞にRLT-2ME(表 2)を350 μL/well加え、細胞が解けたことを顕微鏡で確認しQIA shuredderに移した。遠心分離を行った後、下のチューブに落ちた全溶液と共に70%エタノールを350 μL/チューブ加えた。遠心分離を行い、カラムから下のチューブへ落ちた溶液を除去した(図 1A,B)。RW1を350 μL/チューブに加え、遠心分離を行いカラムから下のチューブへ落ちた溶液を除去した(図 1C)。DNase mix(表 2)を80 μL/チューブに加え、15分間静置後、RW1を加え、(図 1C)遠心を行った。RPE500 μL/チューブに加え、(図 1C)遠心を行った。この操作を2回繰り返した後、下のチューブを新しいチューブに変え、15000 × g、1分間、室温(*1)で空遠心を行った。RNase Free waterを30 μL/チューブ加え、下のチューブをコレクトチューブに変え、遠心分離を行いコレクトチューブに落ちたものをRNAの抽出及び精製したものとして次の操作に使用した(図 1D)。*1 ここの遠心分離以外の遠心分離は全て11500 × g、1分間、室温で行った。

(3)     cDNAの合成

抽出及び精製済みのRNA濃度をNano Drop(Thermo SCIENTIFIC NanoDrop 2000c)で測定し、濃度・波長が基準範囲を満たしていることを確認した。その後、回収したサンプルのRNA濃度が以下の計算式でcDNA合成後13.333…ng/mLになるようにRNase Free Waterで希釈を行った。

希釈後のサンプルを8連チューブに15 μL加えた。iScript mix(表 2)を5 μL/チューブに加え、vortexでサンプルとよく混ぜ合わせ、サーマルサイクラー(BIORAD iCycler)でRNAからcDNAを合成した(反応サイクル:表 2)。反応終了後、サンプルにRNase Free waterを180 μL加え、200倍希釈した。以上のサンプルをReal Time PCRに使用した。

(4)     Real Time PCR測定

測定したい遺伝子(G-CSF,IL-6,IL-1β)のプライマーで作成したMaster mix(表 2)をqPCRプレートに8 μL/wellずつアプライした。Master mixをアプライしたwellにcDNA合成した各サンプルを2 μL/wellずつアプライした。Master mixとサンプルをvortexにより、よく混ぜ合わせ、CFX96(BIORAD Real Time System)で遺伝子発現の測定を行った。測定した遺伝子と同時にハウスキーピング遺伝子として、β-Actinを測定して細胞内の遺伝子発現を補正した。

第4節       Gene Chip解析の検証 ELISA

(1)     細胞を培養していた、培養上清中のタンパク質(細胞が放出したタンパク質)をサンプルとして使用した。培養していた培地を全て(約500 μL/well)を1.5 mL容量チューブに回収、氷上にて静置した。その後、15000 × g、1分間、室温で遠心分離を行い、ペレットを確認後、上清のみを8連チューブに回収した。-80℃冷凍庫で保存し、ELISAのサンプルとした(図 2A)。ELISAには、Duo Set(R&D SYSTEMSTM)(G-CSF,IL-6の各キット)の抗体を使用した。Capture AntibodyをPBS(-)で希釈後(表 3)、ELISA用のプレートに50 μL/wellずつアプライした。アプライ後、遮蔽シールを貼り、室温にてover nightした。翌日、wellの溶液を除去し、wash buffer(表 3)でwell内を満たした。その後、well内の溶液を除去し洗浄を行った。1%BSA in PBSを300 μL/well加え、ブロッキングを行った。遮蔽シールを貼り、1時間、室温で静置した。上記と同じ方法で洗浄を行った。Detective Antibodyを1%BSA in PBSで希釈(表 3)し、上記と同じ方法で加え、静置した。上記と同じ方法で洗浄を行った。HRPを50 μL/well加え、遮蔽シールを貼りアルミ箔でELISAプレートを遮光後、20分、室温で静置した。TMB試薬のAとBを混合させたもの(表 3)を100 μL/well加え、アルミ箔でELISAプレートを遮光後、15分、室温で静置した。溶液の色が変化したことを確認しstop solutionを50 μL/wellを加え、Flex Station 3(Molecular Devises)で測定をした。

(2)     サンプル及びスタンダード溶液の調製

a)検量線内にサンプル中のサイトカイン濃度がおさまるよう。サンプルの希釈濃度を決定するため、事前に条件検討を行った。また、検量線を作成するためのスタンダード溶液も下記のよう調製した。

b)サンプル溶液

サンプルの希釈濃度の条件検討の結果、G−CSFは1000倍、IL-6は500倍に1%BSA in PBSで希釈を行いサンプルとして使用した。

c)スタンダード溶液

G-CSFは、スタンダード溶液のトップを2000pg/mLに調製した。2倍段階希釈により、1000、500、250、125、62.5、31.25、15.625、0pg/mLに300 μLずつ各濃度のものを1.5 mL容量チューブに作成した。IL-6はトップを600 pg/mLに調製した。同じように2倍段階希釈を行い、600、300、150、75、37.5、18.75、9.375、0 pg/mLを各濃度のものを1.5 mL容量チューブに作成した。

調製したサンプル・スタンダード溶液を50 μL/wellずつアプライした。アプライ後、遮蔽シールを貼り、室温にて2時間、静置した。

第3章  結 果

第1節       高濃度IgGによる遺伝子発現の変動

まず、高濃度IgG添加によって、TNF-α刺激したHCAEC内の遺伝子発現の変動を網羅的に検討した。今回の研究ではIgGの濃度は20 mg/mLに設定した。その理由は、現在の川崎病患者に使われる標準IVIG療法のIgG濃度が2 g/kgであり、その結果全身の血流中で増加するIgG濃度が約20 mg/mLであると算出されたためである

Gene Chip解析の結果、IgG添加によって、最も遺伝子発現が低下したトップ10プローブを図 3に示した。興味深いことに、川崎病の病態形成に重要な役割を担うサイトカインであるG-CSF,IL-1β,そしてIL-6がトップ5に含まれていた。

Gene Chip解析(図 3)の結果をさらに詳しく検証するために、G-CSF , IL-1β , IL-6の遺伝子発現について、quantitative real-time PCR(qPCR)を行った。G-CSFはTNF-α刺激後徐々にG-CSFのmRNA発現が増強し、48時間まで続いた(図 4A)。一方、TNF-α刺激にIgG処理を行った場合は、G-CSFのmRNA発現を完全に抑制した。また、TNF-α + IgG処理で培養した培養上清中のG-CSFタンパク質レベルを見ても、同様に全く検出されなかった(図 4B)。IL-1β , IL-6のmRNAの増加/IgGによる抑制もG-CSFのパターンとよく似た結果となった(図 4C,D,E)。

対照的に、IL-1βでHCAECに刺激を行った場合、IL-1βにより誘導されるサイトカインG-CSF , IL-1β , IL-6はIgG処理を行っても、発現誘導を全く抑制できなかった(図 4F-J)。

第2節       IL-1βによるIgG抑制効果のキャンセル

(1)     前述した研究により、HCAECを刺激する炎症性サイトカインTNF-αをIL-1βにかえることによって、IgGの抑制効果がまったく認められないことが明らかとなった(第3章 結果 第1節、図 5)。この結果は、IVIG不応のメカニズムを考える上でも重要である。現時点で川崎病治療における臨床的に最も重要な課題は、初回IVIG治療に対して不応の患者が20%近くいることであり。その原因も特定されておらず、これらの不応例は冠動脈後遺症の発生率も高い。

そこで、IL-1β刺激からのシグナル伝達系のどこかに、IgGの抑制効果をブロックする何らかの機序があるのではないかと仮説を立てた上で、以下の実験を行った。

10 ng/ml TNF-αと10 ng/ml IL-1βの両刺激下でIVIG処理をし、それでもIgGはG-CSF、IL-1βそしてIL-6発現を完全に抑制するのか、部分的に抑制が認められるのか、あるいは全く抑制が認められないのか、という点を確かめた。また、炎症性サイトカインを混合させることによって。炎症の相乗効果が生じる可能性が考えられたため、IL-1βの濃度を10 ng/mL以外にも0.1 ng/mL、1.0 ng/mLの2点も追加してIgG効果に影響するのか検証を行った。上記で行った実験(Real Time PCR/ELISA)を行った。

(2)     結果と同じように、TNF-αによるサイトカインの誘導はIgGにより、完全に抑制できるがIL-1βによるサイトカインの誘導は抑制できなかった(図 6A ~ E)。IL-1βを添加(TNF-α + IL-1β)することで、0.1 ng/mL、1.0 ng/mL 、10 ng/mL 、いずれのIL-1βの濃度でもIgGの抑制効果をキャンセルしたことから、IL-1βからのシグナル伝達系により、IgGの抑制効果をブロックしている可能性が示唆された(図 6A-E)。また、TNF-α + IL-1β共刺激では、TNF-α・IL-1βそれぞれ単独で刺激を行った場合よりもIL-1βの濃度依存的に炎症性サイトカイン(G-CSF、IL-6、IL-1β)のコピー数を増加させることから、相乗効果がある可能性も示唆された(図 6A-E)。

第5章  考 察

高濃度IgG(IVIG製剤)を添加することによって特に抑制された遺伝子群として、炎症性サイトカインG-CSF、IL-6、IL-1βであることをGene Chip解析により明らかにした(図 3)。これらのサイトカインは全て、川崎病の病態形成に関与していることが報告されていることから、IVIGの臨床効果の発揮には、TNF-αによるこれらのサイトカインの発現抑制が重要である可能性が示唆された。またこの結果は、川崎病患者は血清中のG-CSF、IL-6が上昇しているが、IVIG療法後では特にIVIG療法に有効な患者で顕著に減少するとの報告とも一致する。[6]。しかし、急性期川崎病患者の病態を形成するこのような炎症性サイトカインが、主にどのタイプの細胞から産生されるのかについては、まだ明らかになっていない。今回の研究成果から、候補として冠動脈血管内皮細胞が挙げられるが、血管内皮細胞は炎症状態下でG-CSFの産生源となる報告とも一致する[7,8]。

結果のELISAにIL-1βの測定結果をあげなかった理由として、TNF-αやIL-1βなどの炎症性サイトカイン刺激だけでは、IL-1βタンパクは前駆体として細胞内に蓄積されるだけで、培養上清中には放出されないためである。IL-1βを細胞外に放出するためには、尿酸や結晶シリカ等による副刺激を介したCaspase-1-dependentなインフラマソーム活性化機構が必要であることが知られている[9]。

TNF-α刺激の場合とは対照的に、IL-1β刺激後では高濃度IgG処理を行っても、G-CSF、IL-6、IL-1β等の炎症性サイトカインの誘導を抑制できなかった(図 5 A-E)。また、TNF-αとIL-1βによる共刺激を行った際、IL-1βの濃度をTNF-αの100分の1(0.1 ng/mL)にしても、IVIGの抑制効果をキャンセルしたことから、IL-1βからシグナル伝達系の中に、IgGによる抑制効果をブロックするメカニズムの存在が示唆された。

現在、IVIGに不応な患者が20%近く存在することが臨床的に最大の問題となっている。さらに不応例患者は、IVIGが有効は患者と比べて、冠動脈瘤の形成につながる確率が高く[10]、不応の原因も未だに分かっていない。しかし、川崎病患者全血を用いたTranscriptome解析において、IVIG不応例ではIL-1 pathwayに関する遺伝子群の発現が高いとの報告や[11]、IL-1βの遺伝子多型(SNP)がIVIG不応例と関連するとの報告もあることから[12]、TNF-α刺激とIL-1β刺激によるIVIG効果の違いは、IVIG不応例の原因解明の重要なヒントになると考えている。

第6章  今後の展望

本研究により、IVIGが川崎病患者に対してなぜ有効であるのか、という臨床的な疑問に関する一つの説明を提示することができた。すなわち。TNF-αの刺激により誘導ざれる川崎病の病態形成に必須のサイトカイン群(特に、G-CSF、IL-6、IL-1β)の発現をIVIGは完全に抑制できる、ということである。一方でHCAECを刺激する炎症性サイトカインTNF-αをIL-1βに変えることによって、IVIGの抑制効果が全く認められないことを明らかにした。

現在、初回IVIGに不応の患者に対する追加治療のオプションとしては、以下の方法がある。

  • IVIGの追加療法
  • IVIG不応が予測される患者に対するステロイド薬の併用
  • レミケード(抗TNF-α療法)
  • 免疫抑制剤の併用(シクロスポリン)

また、TNF-α + IL-1βの共刺激の際、IL-1βの濃度をTNF-αの100分の1(0.1 ng/mL)にした場合でもIVIGの抑制効果をキャンセルしたことから(図 6)、IL-1βからのシグナル伝達系のどこかにIVIG効果をブロックするメカニズムがあると推察しており、この点をさらに明かすことにより、IVIG不応例に対する新たな治療戦略が期待される。また、IVIG不応例の一部には、追加治療として抗IL-1β療法が有効である可能性が考えられる。

第7章  参考文献

  1. Misra, N., Bayary, J., Dasgupta, S., Ephrem, A., Huyen, J. P., Delignat, S., Hassan, G. et al., Intravenous immunoglobulin and dendritic cells. Rev. Allergy Immunol. 2005. 29: 201–205.
  2. Ballow, M., The IgG molecule as a biological immune response modi-
fier: mechanisms of action of intravenous immune serum globulin in autoimmune and inflammatory disorders. Allergy Clin. Immunol. 2011.
127: 315–323.
  3. Furukawa, S., Matsubara, T., Jujoh, K., Yone, K., Sugawara, T., Sasai, K., Kato, H. et al., Peripheral blood monocyte/macrophages and serum tumor necrosis factor in Kawasaki disease. Immunol. Immunopathol. 1988. 48: 247–251. 

  4. Matsubara, T., Ichiyama, T. and Furukawa, S., Immunological profile of peripheral blood lymphocytes and monocytes/macrophages in Kawasaki disease. Exp. Immunol. 2005. 141: 381–387. 

  5. Hui-Yuen,J.S.,Duong,T.T.andYeung,R.S.,TNF-alphaisnecessaryfor induction of coronary artery inflammation and aneurysm formation in an animal model of Kawasaki disease. Immunol. 2006. 176: 6294–6301. 

  6. Abe,J.,Ebata,R.,Jibiki,T.,Yasukawa,K.,Saito,H.andTerai,M.,Elevated granulocyte colony-stimulating factor levels predict treatment failure in patients with Kawasaki disease. Allergy Clin. Immunol. 2008. 122: 1008– 1013.
  7. Broudy, V. C., Kaushansky, K., Harlan, J. M. and Adamson, J. W., Interleukin 1 stimulates human endothelial cells to produce granulocyte-macrophage colony-stimulating factor and granulocyte colony-stimulating factor. Immunol. 1987. 139: 464–468.
  8. Zsebo, K. M., Yuschenkoff, V. N., Schiffer, S., Chang, D., McCall, E., Dinarello, C. A., Brown, M. A. et al., Vascular endothelial cells and gran- ulopoiesis: interleukin-1 stimulates release of G-CSF and GM-CSF. Blood 71: 99–103.
  9. Franchi, L., Eigenbrod, T., Munoz-Planillo, R. and Nunez, G., The in- flammasome: a caspase-1-activation platform that regulates immune responses and disease pathogenesis. Immunol. 2009. 10: 241– 247
  10. Newburger, J. W., Takahashi, M., Gerber, M. A., Gewitz, M. H., Tani, L. Y., Burns, J. C., Shulman, S. T. et al., Diagnosis, treatment, and long-term management of Kawasaki disease: a statement for health professionals from the Committee on Rheumatic Fever, Endocarditis and Kawasaki Dis- ease, Council on Cardiovascular Disease in the Young, American Heart Association. Circulation 110: 2747–2771.
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  12. Weng, K. P., Hsieh, K. S., Ho, T. Y., Huang, S. H., Lai, C. R., Chiu, Y. T., Huang, S. C. et al., IL-1B polymorphism in association with initial intravenous immunoglobulin treatment failure in Taiwanese children with Kawasaki disease. J. 2010. 74: 544–551.
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第8章  謝 辞

本論文を作成するにあたり、国立研究開発法人 国立成育医療研究センター研究所 免疫アレルギー・感染研究部 部長 松本健治先生、室長 松田明生先生にご支援を頂きました。ここに深く感謝申し上げます。

また、このような機会を与えていただきました東京バイオテクノロジー専門学校の先生方、ご協力を頂きました国立研究開発法人 国立成育医療研究センター研究所 免疫アレルギー・感染研究部のみなさまに感謝致します。

最後に、いつも温かく支えてくれた家族に心から感謝しています。

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