マグネシウム欠乏による嗜好性の変化

研究先 東京大学 農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 日清食品寄付講座「味覚サイエンス」

要旨

マグネシウムは動物を構成する元素の内10番目に多く存在する必須元素である。マグネシウムは生体内でエネルギー代謝、特に高エネルギーリン酸化合物(ATP、ADP等)の合成・分解時に補助因子としてなくてはならない成分であることが知られている。マグネシウムが欠乏した場合貧血、不整脈、筋肉のけいれん、疲れなどの症状が現れることが多い。食事制限などでマグネシウムが欠乏した場合、動物はこの状態を体内感覚として察知しマグネシウムを摂食する行動をとると考えられる。この変化が嗜好性にどの程度関わるか調べることを本研究の目的とした。

Sprague-Dawley系雄性ラット14匹を1週間の予備飼育の後、欠乏食及び通常食の2群に分け2週間飼育した。食事制限、飲水制限は行わなかった。試験直前に23時間の絶水を行った後、塩味(食塩)、甘味(ショ糖)、苦味(デナトニウム)、酸味(クエン酸)をそれぞれ4段階の濃度で与え嗜好試験を行った。通常食とマグネシウム欠乏食を摂取したラットによる嗜好率をそれぞれ測定し、2群間の嗜好の違いを調べ有意差検定を行った。また試験が終了したラットから血清を採取し、マグネシウムが欠乏していることを確認した。

欠乏食群のラットは通常食群のラットに比べ、毛並みが悪く出血しやすい傾向が見られた。症状は、早い個体では1週間で発現したが、遅い個体では2週間後でも通常食群と差が見られなかった。行動試験後の全ての個体についてナトリウム(Na)、カリウム(K)、塩素(Cl)、カルシウム(Ca)およびマグネシウム(Mg)について血清中の濃度を測定したところ、マグネシウムでは欠乏食群では1.29mg/mlであるのに対して通常餌群では2.66mg/mlであり有意に差が見られた(P=0.00002%)が、そのほかはすべて有意差が見られず、血清成分としては明確にマグネシウム欠乏が確認できた。

一方嗜好試験では使用した4種類の味覚溶液の4種の容量すべてで有意差が見られなかった。しかし、塩味のうち1000mMでは有意差は見られなかったが忌避が緩和する傾向が見られた。さらに、苦味では試験した4種の濃度すべてで欠乏群が通常群より忌避が緩和する傾向が見られた。今後実験条件を変更する等により、塩味および酸味については嗜好試験で有意差が認められる可能性もある。

目次

1.序章.. 1

1.1.マグネシウムの性質.. 1

1.2.マグネシウムの生体機能.. 2

1.3.味覚に対するマグネシウムの関与.. 3

1.4.本研究の目的.. 3

2.実験.. 6

2.1.材料・方法.. 6

2.1.1.材料.. 6

2.1.2.方法.. 7

3結果.. 13

3.1.飼料.. 13

3.2.飼育状況.. 13

3.3.血清分析.. 13

3.4.リッキング試験.. 13

4考察.. 24

5参考文献.. 26

6謝辞.. 27

1.序章

1.1.マグネシウムの性質

植物は17種の元素、すなわち炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、硫黄(S)、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、塩素(Cl)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)が正常な生育に必要とされることが知ら得ているが、動物は上記17種にえて、フッ素(F)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ヒ素(As)、セレン(Se)、ヨウ素(I)、臭素(Br)の27種が必要とされている。また、多細胞動物はさらに神経伝達や体液循環系を機能させるためにナトリウム(Na)を必要とする。このうち、動物のみで必要な元素はナトリウムを除いて極めて微量で欠乏症を発症させることは極めて難しい。

マグネシウムは原子番号12、原子量42.305、周期律表第2族元素、酸化数2、比重1.74の軽い金属で強い還元性を持っている。アルカリ金属やアルカリ土類金属と異なり、酸化による腐食はしない。熱水、塩水、希酸に溶解し水素を発生させるため、マグネシウムによる火災では水による消火は行ってはいけない。

マグネシウムは第2族元素であるが以下の理由によりアルカリ土類金属に分類されていない。

1)炎色反応を示さない

2)単体(個体)は水と反応しない。

3)空気中で酸化不動体を形成する。

4)硫酸塩が昜水溶性。

5)水酸化物が難水溶性で弱塩基性。

6)水酸化マグネシウムの溶解度は水酸化カルシウムより小さい。

マグネシウムはハロゲン化アルキル(R-X)と反応してR-MgXで示される有機金属化合物を形成し(グリニヤール試薬)、カルボニル等と反応してC-C結合を生成することから有用な試薬として用いられている。その他に

1)肥料

2)にがりの主成分として豆腐の擬固剤

3)食品添加物(膨張剤,強化剤等)

4)医薬品(主に下剤)

などにも使われている。

1.2.マグネシウムの生体機能

生物がマグネシウムを利用するようになった理由ははっきりしない点が多いが、太古の時代を推定すると、地表や海に比較的大量に存在する2価のカチオンとして、カルシウムとマグネシウムが類似の候補となったであろう。両者を比較するとマグネシウムは、リン酸との親和性が中程度で生化学反応の選択性や特異性の発現に適応したためではないかと推定される。例えば、生体内のエネルギー通貨であるアデノシン3リン酸がATP加水分解酵素により開裂するパターンは図1-1のように2種類存在するが、この反応はマグネシウムとリン酸の相互作用により決定される。この反応をカルシウムに置き換えようとしても、カルシウムはリン酸と強固に結合して不溶化する傾向が強く化学的な利用が困難な点も、マグネシウムが選択されてきた理由と考えられる。

マグネシウムを必要とする生体内反応をいくつか紹介する。(図1-2)

・グルコースのリン酸化

・グルコース-6-リン酸の異性化

・フルクトース6-リン酸のリン酸化

・1,3-ビスホスホグリセリン酸からADPへのリン酸基の移転

マグネシウムもカルシウムもすでに述べたように細胞内や血液中で大量に必要な元素であるが、腎臓の半透膜を透過し排泄されるために、生体内濃度の維持(ホメオスタシス)が重要である。動物ではカルシウムおよびマグネシウム濃度の維持は主に骨格が受け持っている。このため、摂取量が減ると骨格から他の組織へのカルシウム・マグネシウム供給量が増えるために骨格が脆くなり、極端な場合骨折へと繋がる。一方、過剰摂取は吸収に上限があることからそのまま糞として排泄される傾向が強く、過剰症は出にくい。食品はほとんどが植物ないし動物の一部であったものであるため、基本的に十分量のマグネシウムを含み、通常の食事で不足することはない。しかし精製した食材、例えばショ糖やトリグリセリドを大量に含む食品、すなわち製糖産業により供給される上白糖を用いた飲料や油脂を多く含む製菓、揚げ物・洋菓子、などの大量消費が進み、近年抗アレルギー等の機能付加のために高度に精製した食品が普及し始め、マグネシウム欠乏が懸念されるようになった。現に成人男性のマグネシウム摂取の推薦量は370mg/日(18~29歳)とされているが平成27年度の摂取量は268mg/日(20~29歳)であり成人女性のマグネシウム摂取の推薦量は290mg/日(18~29歳)、平成27年度の摂取量は238mg/日(20~29歳)と不足していることがわかっている。),2)マグネシウムの欠乏は骨粗鬆症や虚血性心疾患、糖尿病などが報告されている。

1.3.味覚に対するマグネシウムの関与

マグネシウムは生物のエネルギー代謝に重要な役割を持つことをこれまで述べた。人は地球という、ほぼ球形の惑星で限定された環境で生活しており、環境温度は⁻20~40℃で高地や海底を除いてほぼ一定の重力加速度を受けている。マグネシウムが欠乏する環境としては高地や、さらに極端な場合宇宙があげられる。人が宇宙旅行や宇宙ステイションに滞在する場合、ほとんど無重力であるため、次のような生体バランスの変化(リスク)することが知られている。1)骨量減少、2)尿路結石、3)肝機能低下、4)宇宙線による遺伝子に対する影響、5)閉塞環境での精神への影響、等が知られている。この中で、直接無重力に由来するリスクは骨量減少である3)。すでに述べたように骨を構成する金属はカルシウムとマグネシウムであるため、宇宙空間はこの二つが減少する特殊な事例といえる。申告例は少ないが、宇宙飛行士が宇宙滞在中の生理変化として、味覚障害が報告されている。味覚障害についてはおそらく亜鉛欠乏と推定されるが、カルシウムおよびマグネシウム欠乏が影響している可能性もありうる。さらに近年ミネラルバランスと味覚障害が注目されており、何か一つのミネナルが欠乏した場合ほかのミネラル全体のバランスが崩れ味覚障害がおこる可能性もある。

味覚障害の起こり方には①味蕾への外的障害、②味物質の到着障害③味蕾の内的障害④味覚伝導路障害⑤食物の味に関連するほかの間隔の障害⑥心因性⑦老化の7つある。中でも③味蕾の内的障害はもっとも多い原因であり、ひと世間で知られている亜鉛欠による味覚障害はこれにあたる。味覚障害を訴える人は増加の傾向があり、食生活に由来する亜鉛欠乏症が挙げられている。現代は食生活の変化により偏った食事が多くなり、また伴侶を失った高齢者や独身者など味覚障害が自覚しにくい環境が拡大させていることが増加の原因と考えられている4)

1.4.本研究の目的

これまで、元素としてのマグネシウムの性質、マグネシウムの生体機能、味覚に対するマグネシウムの関与、について述べてきた。マグネシウム欠乏による味覚障害は報告が見当たらないため、マグネシウムと味覚障害に関連性はないといわれている。しかし、宇宙では味覚障害を起こす場合同時に骨量減少が見られることから関連性の可能性も考えられる。

本研究では、ラットに対してマグネシウム欠乏餌を与え短期的な欠乏状態を起こさせることで、各種味溶液に対する嗜好性の評価を行う。嗜好性の評価は、一定時間味溶液を提示し味溶液を舐めた回数を計測するリッキング法により行う。飼育は通常餌を用いた1週間の予備飼育を経たのち欠乏餌を用いて2週間行い、予備飼育時及び飼育期間中に各1回トレーニングを行う。味溶液は甘味、塩味、酸味、苦味の4種類につて各4段階を用意し、欠乏餌群と通常餌群との嗜好性について統計的に比較する。また、欠乏餌によりマグネシウム欠乏状態であることの確認として、嗜好試験終了時に採血し血清の分析行う。本研究では行動試験の一つリッキング試験を用いてマグネシウムの欠乏による嗜好の変化を調べる。

2.実験

2.1.材料・方法

2.1.1.材料

①被験動物:Sprague-Dawley系雄性ラット4週齢
(日本クレア(株)
②餌:AIN-93G(表2-1)をベース配合(通常餌)とし、通常餌に配合する酸化マグネシウム0.829%を0.099%他に配合を変更した餌をマグネシウム欠乏餌として調製した。調製した餌はICP法によりマグネシウム、カルシウムおよびリンの含量を分析した。オリエンタル酵母工業(株)依頼
マグネシウム含有量490mg/kgの通常餌→結果に移動
マグナシウム含有量91mg/kgの欠乏餌
③道具
・5連ゲージ
・5連ゲージ受け皿
・新聞紙
・吸水ボトル
・餌箱
・リッキング装置
④試薬
・食塩(Sodium chloride):NaCl MW:58.44
・ショ糖(Sucrose):C12H22O11 MW:342.30
・クエン酸(Citric acid):C6H8O7 MW:192.124
・デナトニウム(Denatonium):C28H34N2O3 MW:446.59
⑤飼育室
高温高湿度(室内温度22℃、湿度50%)
明暗12時間周期(明期8:00-20:00暗期20:00-8:00)

2.1.2.方法

①飼育スケジュール
購入および飼育のスケジュールを(図2-1)に示した。被験動物には4週齢のSprague-Dawley系雄性ラット(日本クレア(株)を14匹使用した。本試験の関係からラットは週に2回、2匹ずつ購入し5連ゲージにて飼育した。ラットは2匹ずつ振り分け通常群7匹、欠乏群7匹になるようした。飼育から1週間は予備飼育として2群ともに通常食を与え、その後欠乏群のみ欠乏餌に切り替え14日間飼育し22日目に本試験を行った。
②飼育条件
高温高湿度(室内温度22℃、湿度50%)、明暗12時間周期(明期8:00-20:00暗期20:00-8:00)に設定された動物飼育室で飼育した。なお動物実験は東京大学動物実験実施規則に基づいて行った。
③味溶液
塩味、甘味、酸味、苦味の4種類を4段階の濃度で用意した。(表2-2)味溶液の提示は忌避味から始めるとリッキングをしなくなるため水、甘味、塩味、酸味、苦味に順に提示し甘味のみ高濃度から提示した。
④給餌方法
本実験で使用した飼料および飲料水は自由摂取とし制限は設けなかった。
⑤トレーニング
予備試験期間中に1回、本試験前に1回本試験に使用する水、甘味、塩味、酸味、苦味の3段階目の濃度を提示5秒、間隔15秒を10回行いトレーニングとした。
⑥本試験
味溶液を4種類4段階で用意し提示5秒、間隔15秒を10回行った。ラットへの提示はトレーニングと同様である。
⑦血清分析
欠乏餌を2週間摂食させたことでマグネシウム欠乏になっていることを確認するために、本試験を終了した個体は順次即日または翌日に解剖を行い、採血し血清を調製後冷凍保存した。すべての個体から血清を調製したのち、オリエンタル酵母工業(株)3000r pmで10分遠心分離し血清の採取を行った。
分析はオリエンタル酵母工業株式会社に依頼した。
項目はマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、塩素(Cl)、ナトリウム(Na)の5項目である。
⑧データ処理
5秒間計測したリッキング回数を個体ごとに平均を求めさらに味溶液の濃度ごとに平均にしたものを水の平均値で割り嗜好率を求めた。
個体の平均は最初の2回は直前の味溶液の影響が見られる可能性から除外し、平均以下のデータも外れ値として除外したデータで算出した(図2-2)

[嗜好率]=[リッキング数平均]÷[水のリッキング数平均]

3結果

3.1.飼料

表2-1に示したAIN-93を基に配合した飼料を、ICP法を用いて飼料中のカルシウム、マグネシウム、リンの含有量をしらべた結果、マグネシウムが通常餌490mg/kgであるのに対し欠乏餌は91mg/kgと含有量に有意な差が表れた。以上より今回調製した欠乏餌は目的に合っていることが確認できたため、この餌を用いて実験を進めた(表3-1)。

なお、その他の分析項目であるカルシウム、リンについては通常餌と欠乏餌間で有意差は見られなかった。(表3-1)

3.2.飼育状況

2週間の欠乏餌飼育により欠乏群に目に見えた影響が現れる個体が見られた。

本試験でのマグネシウム欠乏症は個体差があり、通常群と変わりない個体もいれば症状が脱毛、皮膚の損傷を起こした個体もいた。

欠乏群は、全般的に毛並みが悪くなり一部の個体では掻き毟ったと推定される傷ができていた。傷が有るところは個体にもよるが毛が毟られていた。(図3-1~図3-2)

3.3.血清分析

行動試験が狩猟したラットから採血して調製した血清の分析結果を表3-2および図3-7に示した。通常群と欠乏群における血清中のナトリウム、カリウム、カルシウム、塩素濃度は有意差が見られず変化がないと判断した。マグネシウムは欠乏群が通常群に比べ半分以下になっており検定の結果p値は0.00002%で極めて有意差が高かった。この事から欠乏群はMg欠乏状態であったことが確認できた。

3.4.リッキング試験

結果を図3-3から図3-6に示す。4種の味溶液について各4段階の濃度ごとに通常餌群と欠乏餌群の2群間4種類の味溶液に対し有意差があると仮定して検定を行った結果、検定した16項目すべてで、5%水準で有意差は見られなかった。

甘味(図3-3)は全ての濃度において5%水準で有意差が認められなかったが、欠乏群の30mMを除いた他の全ての濃度で嗜好率が高くなる傾向が見られた。

塩味(図3-4)は低濃度では嗜好味、高濃度では忌避味となることが知られており今回の実験では300mM~500mMで嗜好性を表し、700mM~1000mMで忌避性を表したことからこの現象を支持する結果となった。通常群と欠乏群を比較すると実験した4種類の濃度すべてで有意差は見られなかった。しかし1000mMでは欠乏群の嗜好率が通常群の嗜好率より高い傾向が見られた。実験条件によっては高濃度で有意差が認められる可能性が考えられる。

酸味(図3-5)は全ての濃度において有意差は無く、100mMでコントロールより少し高い値になっており、その他の濃度では嗜好率が低くわずかに忌避の傾向が見られた。今回使用した酸味の30mM~100mMは忌避するほどの濃度ではなかったことが考えられる。30mMの嗜好率がコントロールより高くなったため無味であるコントロールより薄味でも酸味がある方が、嗜好性が高くなるかもしれない。

苦味(図3-6)では全ての濃度において有意差は無く、コントロールより嗜好率が低なったことから忌避味であることが分かる。しかし、すべての濃度で欠乏群が通常群より嗜好率が高く、忌避が緩和される傾向が認められた。

4考察

本研究で行った、マグネシウム欠乏ラットを用いた行動試験において味覚の嗜好変化に5%水準で有意差は認められなかった。しかし嗜好変化の傾向は見られたため、マグネシウム欠乏は味覚に影響が出る可能性も否定しきれない。このことはマグネシウムが直接味覚に作用するというよりもマグネシウム欠乏により引き起こされる体内変化の一部が味覚の変化を引き起こすのではないかと考えられる。どのような生体反応が味覚と関連するかは現時点では不明である。

欠乏群内でのばらつきが多く個体差が見られた。まず飼育時では一見通常群と変わりのない個体でも、皮膚の脱毛や出血などの欠乏症と考えられる個体がいた。今回の欠乏症は皮膚の紅潮が考えられ、乏症状が出たラットは掻き毟った傷が多く毛が毟られていた。この事から皮膚にかゆみがあった可能性がある。皮膚のかゆみ等の異常はアトピーと類似の現象で免疫系の異常ではないかと考えている。ラットのマグネシウム欠乏による皮膚炎の発症については、花田らにより実験的に惹起しうることが報告されている6)。この報告によると、皮膚炎はマグネシウム欠乏、亜鉛欠乏ともに発症するが、四肢末端での皮膚炎の発症がマグネシウム欠乏では見られないのに対して亜鉛欠乏では見られる点が異なる。四肢末端の皮膚炎がない点は今回の実験観察とも一致する。

しかし、味覚以外での引き金となる体内変化としては、マグネシウムは細胞維持に必須のミネラルであるため、細胞内濃度は厳密に維持するように働くが、血中濃度は細胞内濃度に比べてマグネシウムが少なくなっても生体を維持可能と考えられ、今回の実験データや尿からの排せつ量を減らせることからも支持できる。しかし、血中のマグネシウム濃度の低下により免疫を担当する細胞のマグネシウムが不足し代謝活性が低下することで免疫機能の低下を引き起こす可能性があるのではないかと考える。

宇宙飛行士が無重力空間に長時間いることによって骨量が低下することでカルシウムやマグネシウムが不足することは良く知られている。骨量低下がミネラルバランスの崩れにどの程度関与しているかはほとんど知られていないが、味覚障害になったことが報告さていることから、ミネラルバランスの崩れの一つである亜鉛不足が有力である。しかし、骨量減少が直接亜鉛不足につながることも現時点では検証できていないことから、マグネシウム不足の関与も否定できない。

血清分析の結果から2週間のマグネシウム欠乏食の摂食ではマグネシウム以外のミネラルは欠乏していなかった。今回は短期間の飼育であり骨量は測定しておらず、カルシウム濃度は通常餌と有意差が見られなかったが、このまま継続して飼育することで骨量低下の可能性も考えらえる。

リッキング試験に有意差がないことから本研究ではマグネシウム欠乏による嗜好の変化は認められなかったが、忌避味に対して味覚が鈍くなる傾向が見られた。このことは長期の欠乏状況に置いた場合の嗜好に変化が起こる可能性がある。しかし、欠乏状況が本研究よりさらにひどくなった場合、ラットが生命活動できなくなることが推定されるため欠乏状態の下限を一定に保った飼育が必要と考える。

5参考文献

1) 厚生労働省:調査結果の概要(2012)

2) 厚生労働省:日本人の食事摂取基準の概要(2015)

3) JAXA:宇宙航空研究開発機構

4) 冨田寛 障害の全貌 診断と治療社 (2011)

5) J. M. Berg, J, L. Tymoczko, L. Stryer, Biochemstry, 7th

6) 花田勝美、鈴木賢二、橋本功、日本皮膚科学会雑誌、98巻798頁~、1988年

6謝辞

本研究を行うにあたり、多くの方々にお世話になりました。紙面にて大変恐縮ではありますがこの場をお借りし感謝の意を述べさせていただきます。

研究テーマをご提供してくださり、また様々なアドバイスやご教授、ご鞭撻をしてくださいました東京大学大学院農学生命科学研究科 日清食品寄付講座 味覚 サイエンス寄付講座 朝倉富子特任教授に厚く御礼申し上げます。

本研究を行うにあたり共に研究を行い、豊富な知識を持って未熟な私を最後まで導いてくださった。東京大学同研究室の山下治之研究員に厚く御礼申し上げます。

配属当時何も知らなかった私を気にかけてくださり、また研究室での過ごし方や機械の操作法など多くの助言、ご教授くださいました味覚サイエンス研究室の皆様に深く感謝いたします。

未熟な私が研究を行えたのも多方面でサポートしてくださいました皆様のご尽力のおかげです。ありがとうございました。

平成29年2月8日      和田 紫織

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